障害受容・ある少女と母親の事例
2022.07.23
我が子の障害に始めて気づいた時、スムーズに受け入れられないことが普通です。「うちの子、なんだかみんなと違っている」と気づきながらも様子を見てみようと月日が立つケースも少なくありません。
両親の障害受容。子供にとって最も第一に必要なことであります。ある少女との事例から親の「障害受容」についてお話してみようと思います。
精神科医で発達障害の研究にも尽力しておられる杉山登志郎医師によると、両親の障害受容の過程は、キューブラー・ロスの提示した「死の受容」の五段階がそのまま適応でき、最も了解しやすいと言われています。
その「死の受容」を「障害受容の過程」に置き換えた場合を見ていきましょう。
キューブラー・ロス「死の受容」
否認・隔離
我が子が障害であるはずがない、と頑なに認めたくない段階。障害は間違いであると言ってもらえる医師を探してドクターショッピングを重ねることもある。
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怒り
なぜ自分の子供だけが障害児に生まれたのかと怒りが湧いてくる段階。周囲の人のかかわりが他人事のようで冷たく感じたり、場合によっては結婚の経緯にまでさかのぼってまで怒りが生まれる。その怒りは我が子にまで及ぶこともある。
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取引
療育などの訓練に没頭する時期。障害に良い治療法だと聞けば遠方をいとわず出かけたり、場合によっては虐待すれすれまで子供を追い込んでしまうほど、追い詰められた精神状態。
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抑うつ
障害に対するあきらめの時期。さまざまな療法等を試みるも、障害の存在が否定できなくなると抑うつ状態に陥る。周囲との関わりを避け、熱心だった療育にも関心がなくなってくる。
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受容
障害受容の段階。前段階の苦しい過程を経て、障害があろうとなかろうと、かけがえのない我が子であることを了解し、障害を受け入れる。
(引用:杉山登志郎著「発達障害の豊かな世界」より)
このキューブラー=ロスの五段階は受け入れがたいものを受け入れていく時に普遍的に見られると杉山登志郎医師は言われています。
ある少女と母親の関係
私が以前にカウンセリングを担当した発達障害の少女についてお話したいと思います。
当時彼女は高校生で、精神科医の紹介で父親に連れられてカウンセリングを受けに来ました。主訴は幻覚、幻聴で外出もできないほど苦しんでいました。半年のカウンセリングでそれらの症状は改善しましたが、父親、本人からのヒアリングで、その内容が親子で全く食い違っていたことに驚きました。彼女は親も知らない壮絶な精神疾患と戦っていました。
なぜ、ここまでひどく精神を病んでしまったかというと、発達障害と診断された小学校2年生の時から一度も、両親が娘の障害を受け入れることが出来ていなかったことに尽きます。
特に母親は前述のキューブラー=ロスの五段階モデルの二段階目「怒り」で止まってしまっていました。特に問題だったのが、その怒りが子どもに向いていたことです。母親は育てにくい我が子に、どこにも向けることが出来ない怒りをぶつけてしまい、不在がちな夫の存在も重なって、子育て出来る状況ではなくネグレクトとなり自身もうつ病となってしまいました。父親はようやく娘の異変に気づきましたが、発達障害に関しては一向に受け入れませんでした。
両親の障害を受け入れない、こうした姿勢が子どもに与える影響は、彼女を5年間カウンセリングしてきた私は目の当たりにしてきました。
彼女は社会での生きづらさだけではなく、思春期、青年期に入って重度の二次障害(摂食障害、情緒障害による幻覚、幻聴、希死念慮、自傷行為、他害念慮など)により苦しむこととなってしまいました。
人格形成される大切な時期に適する育児、母親との愛着関係が築かれることなく、結果、発達障害以外の問題を抱える事となってしまいます。友人を作ることが困難ゆえに相談できる人もいなく、非常に激しい自己不全感に陥ってしまったのです。
彼女の場合はすでに青年期に達しており、もっと早くに周りの大人たちが気づいていれば、また違う治療や療育などもあったかと思われますが、幼い頃にもどってやり直すことはできないので、また別のアプローチで治療をおこなっていきました。
彼女を通じて、両親の障害受容の早期介入の必要性を強く感じました。それには両親がまずは障害を受容し、「子供の特性」と気づき認めることが不可欠です。
受け入れられない事実を乗り越えて、障害受容への過程を経て両親も共に成長をしていきます。それこそが、子どもの成長を育む全ての基盤となります。